昨今、海外挑戦に挑む若手が増えている。
昨シーズンには寺尾勇利選手および平野裕志郎選手が、今秋からは三浦優希選手がアメリカジュニアトップリーグであるUSHLへ挑戦している。同年代では、フィンランドには黒岩選手、デンマークには長山選手が挑戦している。LeadOff Sports Marketingのように、選手の海外挑戦を手助けするところや、ケベック国際ピーウィーホッケートーナメントに日本の子供達を連れていくというプロジェクトもかなり認知度が高まってきたところだ。
大学リーグからも先月、中央大学簑島選手、東洋大学古川選手、早稲田大学ハリデー選手がUSHLのトライアウトに挑戦した。今回は、中央大学簑島選手に初めての海外挑戦を終えての感想をお聞きした。
将来は海外でプレーしたい
– まずはじめに、USHLに挑戦しようと思った理由は?
同年代の寺尾選手、平野選手、三浦選手などが、海外挑戦をしている中で、自分も負けられないと思ったことが大きいです。今回、平昌五輪最終予選の代表に選出していただくことができましたが、ゆくゆくは日本代表を牽引できるプレイヤーになりたい。そのためにはもっとステップアップして世界を見なければいけないのではないかとも思っていました。
– どういったきっかけ、紹介でトライアウトを受けることになったのでしょうか?
東北フリーブレイズの若林クリス監督から、僕と早稲田ハリデー選手、東洋古川選手に打診があって、それで行くことになりました。最初は全員、USHLヤングスタウンファントムズのトライアウトに行く予定だったのですけれど、途中で向こうの枠がないということになりました。それで、古川選手だけヤングスタウンに行き、僕とハリデーは同じUSHLでも違うチーム、リンカンスターズのトライアウトを受けにいくことになりました。
– そもそもUSHLというのはどのようなリーグでしょうか?
USHLは北米のジュニアトップリーグです。プロではないので防具の支給はありますが、お金はもらえません。年齢は18~20歳くらいまでのリーグです。お金をもらわないので、USHLを出た後、多くの選手はほぼ大学に進学してNCAAでプレーすることになります。
NCAAでは「プロとしてお金をもらってプレーした人はプレーできない」という規約があります。平野選手や寺尾選手はそれぞれフリーブレイズ、アイスバックスの派遣でUSHLに挑戦しているので、USHLを出なければならない年齢ですが、NCAAでプレーすることができません。三浦選手はNCAAにたぶん行けそう?という段階らしいですが、チェコのジュニアリーグでプレーしていたときに数試合、上のチームにコールアップされてプレーしたので、規約違反でないかどうか目下審議中みたいです。カナダのOHL(オンタリオホッケーリーグ)などもジュニアリーグとして有名ですが、こちらは給料がでるみたいなので、セミプロ扱いでNCAAには行けないみたいです。
– 寺尾選手は来季ECHLミズーリ マーベリックスとトライアウト契約を結んだというニュースがありましたが
ECHLはプロのリーグです。NHLの下に2部リーグであるAHLがあって、その下にある3部リーグがECHLです。NHLとAHLではほぼレベルは変わらないみたいです。NHLのほうがエンターテイメント要素が強いという違いがあるくらいで。
NHLドラフトにかかった選手というのも、いきなりNHLでプレーするトップスター選手以外はAHLやECHLに1年契約でまずプレーします。そこからのNHLへのステップアップを目指すというのがキャリアパスです。なので、3部のECHLといっても、NHLチームの傘下でないチームだと、NHLにステップアップするのが難しいらしいです。寺尾選手が行くECHLのチームはニューヨークアイランダース傘下のチームなので、上を目指して欲しいですね。
– NHLドラフト以外のAHL、ECHLへの入り口というのは?
寺尾選手はトライアウト契約だったと思うんですが、とりあえずトライアウトを受ける資格があるということだと思います。トライアウトをして入れた選手は、週給400~500ドルの生活です。毎週毎週がサバイバルで、突然クビということもあるみたいです。毎シフトがサバイバルですね。ちなみに、NHLドラフトにかかった選手は1年契約だったりでその期間は守られています。
リンカーン市庁舎
– トライアウトはどんな内容でしたか?
7/8から7/12までという期間でした。最初の2日間は一般公募のトライアウトです。160人くらいが集まっていました。3日目の7/10からはトライアウト契約、キャンプに招集されるテンダー契約、ドラフトにかかっている選手などがキャンプに集合する分、2日目までの人はほぼ切られていました。3日目の7/10に残っていたのは80人くらいでしたが、その入ってきた人も含めると、初日からの人はほぼ消えていましたね。
トライアウトの内容はほぼゲームです。初日は30分1ピリオドのゲームを午前午後で一回ずつやりました。20人1チームで、チーム分けのあとは、絞る段階以外ではチーム変更なしです。僕はずっとハリデーと同じペアでDFをプレーしました。
2日目の7/9は35分1ピリオドのゲームを2ピリオド、午前午後で1回ずつやりました。3日目は2日目と同じですね。さっきも言ったみたいに2000年生まれの若い選手やドラフト済みの選手、すでにUSHLでプレーしている選手などが入ってきてミニゲームをやりました。
7/11は午前は25分1ピリオドを2ピリオド分やりました。ただ、午後のゲームは翌日のオールスターゲームに残れる組と残れない組で分けられてのゲームでした。幸い残りましたが、初日からの人はここでほぼいなくなってしまっていましたね。この時点で残ったのが40人です。20人2チームです。
そして、最終日はオールスターゲームです。20分1ピリオドで3ピリオドのゲームでした。最終的にこのトライアウトを残ったのは27,8人でしたね。ここで落ちてしまいましたが、選ばれた人もここから再びキャンプを経て削られていきます。
– 練習みたいなのはなかったんですね。
全部ゲームでした。そもそもアップや測定みたいなのもなくて、勝手にアップして時間に氷上にいればいいみたいな感じでした。サポートみたいなのもほぼなくて、有り体に言うと「だいぶテキトー」でした笑。研磨は$5払えば何回でもできたみたいですが、一度も研磨しませんでした。あとは、近所の方々がお昼の炊き出しをしてくださったり。パスタ食べましたね。
北米外からのトライアウト参加者5人での写真
高校生、いや中学生の時点で海外に挑戦するべきだ
– 今回、USHLのトライアウトキャンプまで残ることができませんでしたが敗因はなんでしょうか?
遅かった。というのが大きいと思います。僕とハリデーがほぼ最年長でした。19歳20歳になってくるとオーバーエイジ枠なので、すでにプレーしている人が優先ですよね。リーグも20歳までのリーグなので。
もちろん、体の大きさというハンデもありますが、それを加味しても、プレーや獲得ポイント数で残った選手に負けていたとは思いません。残った選手はもともとドラフト契約、テンダー契約や昨シーズンもプレーしていた選手が大半でした。「あれ、あの選手が残るのか」という選手もいましたし、それはドラフトされていた選手だったので。
正直な話、高校生のとき、いや、中学生の時にアメリカに行っておきたかった。そう今では思います。自分が高校生のときには向こうの同年代がどのようなキャリアを通っているのか、知らなかったし、知らなかったからとても損をしてしまったのだと気付きました。NHLドラフトで話題のAustin Mathewsも、世界選手権MVPのLaineも10代で完成した選手としてNHLにドラフトされています。中学生から高校生の期間がとても大事で、中学生のときからアメリカのような競争的な環境に身を置かなければ、世界では戦えないのだと思いました。地元のチームの監督などは選手を離したがらないので難しいかもしれませんが、選手個人のためには海外に出た方がいいと思います。
あとは、せっかくなのでトライアウトの時期が被っていない別のチームのトライアウトも受ければよかったなと思います。他の人はみんなそれをしていました。もったいなかったなと思います。
– 日本の中高生でも海外に出て大丈夫ですか?
中学生、高校の早いうちだと太刀打ちできると思います。今回、自費で30万くらいかかりましたがとても価値がありました。観光も入れての値段なのでもっと圧縮できると思います。早いうちに中学生くらいでトライするのがいいですね。
– ありがとうございました!
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蓑島選手は大学生として唯一、日本代表に選ばれているほどこれからの日本のホッケー界を背負って立つだろう選手だ。その蓑島選手をして、「遅かった」と思わせてしまう日本の環境、閉鎖性を打破していかなければ、日本がホッケー強国として復活することはままならないだろう。
より多くの、中学生、高校生が世界を目指して、日本から羽ばたいていってくれればと思う。蓑島選手もまだ大学2年生、「遅い」かもしれないがまだ「遅すぎる」ということはない年齢だ。ぜひこれからも果敢に挑戦していってもらいたい。